看護における医療ICTとは。メリットと実際の活用例を紹介

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オンライン診療や電子カルテなど、近年医療分野のICT化に関する言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。今回は医療ICTとは何かを踏まえて、看護師が理解しておきたい医療ICTのメリットと活用例から現状の課題まで紹介します。

看護師も関わる医療ICT活用の重要性

ここ数年で進められていた遠隔診療やオンライン服薬指導などを含めた医療ICTに向けた取り組みが、コロナ禍で感染症拡大を防ぐ流れもあり、より身近になりました。看護師として働くうえでも、よく耳にしたり、触れる機会があったりするのではないでしょうか。こうしたICTの活用で医療が抱えるさまざまな課題を解決していく動きがあります。しかし、まだICT推進には課題が多く、世界的にみて日本は遅れている分野でもあります。看護師も関わる医療ICTについて、現状や今後の動きについて知っていきましょう。

ICTが持つ特徴やその能力

まずはICTとは何かについて説明していきます。ICTとは、Information and Communication Technologyの略で、情報技術と通信技術の両方を含む概念のことをさします。ICTに関する内容は時代とともに発展し、新たな技術により開拓され続けている分野です。有線系のネットワークだけではなく、無線系(ワイアレス)の技術も発展してきています。そのICTが持つ特徴や能力についてまとめました。

メディア(情報媒体)の区別を超えた情報収集、分析が可能

さまざまなメディア(情報媒体)を使っていても、区別を超えて統一的に情報を取り扱うことができます。大容量のさまざまな媒体データをデジタルデータとして変換して、高速に蓄積・処理することができます。

時間的・空間的制約を克服

デジタル動画像をリアルタイムで伝送できることも大きな特徴です。ブロードバンド通信の発展により、遠隔地においても、スムーズな情報共有やデータ伝送が可能です。

業務効率化やコスト削減、コミュニケーションの円滑化、情報共有など生産性の向上

ICTを導入することで、既存の管理方法や業務プロセスを根本的に見直すことができ、業務効率化やコスト削減、コミュニケーションの円滑化、情報共有などのさまざまな用途で活用することができ、生産性の向上にもつながります。このようなICTの特徴や能力があるなかで、医療分野で期待される効果としては、特に医療の質の向上、業務の負担軽減や効率化、医療の安全性・信頼性の向上、患者中心の医療サービスなどが考えられます。

ICTとIT・IoTとの違い

ICTと似た言葉、混同されやすい言葉としてITやIoTなどがあります。ITは「情報技術」、IoTは「モノのインターネット」、ICTは「情報通信技術」の総称です。ITは情報技術そのもの、ICTは情報通信技術の使い方、情報伝達や共有といったコミュニケーションの側面をより強調しています。言葉の意味としてはITとICTはほぼ同じですが、こうした区別がなされています。

医療ICTにはどのようなものがあるか

普段私たちが使っているインターネットやSNSなどで情報を共有し、検索する技術はICTの発展によるものです。看護師にとって身近なICTには、電子カルテのクリニカルパスやオーダーシステム、電子処方箋、遠隔診療(オンライン診療)、遠隔服薬指導、電子版お薬手帳、検体管理システム、WEB予約システムなどがあります。

医療ICTを活用するメリット

医療ICTを活用することでどのようなメリットがあるのでしょうか。4つのメリットをあげました。

メリット1:データ収集や分析などによる医療の質の向上

治療や臨床試験などのデータ収集・分析、診療ガイドラインやクリニカルパスなどによって、最新の医学情報を入手することができ、患者さんは病気を理解しやすくなり、また治療にも参加しやすくなります。さらに最近では、VR(バーチャルリアリティ)のテクノロジーにより、3D画像をもとに手術のシミュレーションを行うことや、手術スタッフが情報を共有しながら手術を行うことも可能となり、医療の個別化にもつながっています。

メリット2:看護師の業務の負担軽減、効率化

看護師として身近に感じるICTのメリットとしては、業務の見直しによって業務の負担軽減や効率化が期待できることではないでしょうか。例えば、施設内LANによる業務連携、バーコードや電子タグで医薬品や患者情報の管理ができるため、在庫の確認作業やダブルチェックなどの短縮化、業務の効率化が図れます。また、病院以外でも地域の医療機関や各関係施設同士が患者の診療情報や医薬品情報などを共有することができる、地域連携クリニカルパスなども業務の効率化に貢献しています。

メリット3:エラーチェックによる医療の安全性・信頼性の向上

こちらも看護師として身近に感じるメリットです。電子カルテでオーダー情報の入力時、指示受け、実施時のエラーチェックにより、医薬品などの取り違え、投薬や患者間違え、医療機器の安全管理など医療従事者をサポートします。これにより、ヒューマンエラー、医療過誤の防止効果となり、医療の安全性・信頼性の向上を実感する機会も少なくはありません。

メリット4:患者さんの負担を軽減する医療の実現

インターネットによる診療予約や手術説明、診療情報の共有などにより、患者さんの通院時間や待ち時間の短縮、検査の重複を防ぎ、診療情報の管理がしやすくなります。これにより、患者さんにとって精神的・肉体的な負担の軽減も図れています。病状や手術説明に関するインフォームドコンセント、診察に関するセカンドオピニオンなどによる医療従事者と患者さんとのコミュニケーションを補うことも大きな役割となるでしょう。

上記にまとめたメリットや事例は、大きな病院などではすでに導入されている場合も多いでしょう。しかし、医療分野のICTの場合には、生命・身体に関わるものもあるため、ICT導入には十分に安全性を確保する必要があります。システムを導入したからといってそれで完了ではなく、システムの故障や事故に備えた運用管理体制の整備や、使用するスタッフの訓練も不可欠となります。

看護師が実際に関わることが多い事例

実際に看護師が関わることの多いケースについて、2つの事例をご紹介します。

事例1:電子カルテ

看護師にとっては、これまで紙カルテで記録や指示受けなどしていたものを、電子カルテで管理できるようになったことが大きいのではないでしょうか。電子カルテでバイタルサインの入力や看護計画・看護記録が連動して実施できるだけでなく、クリニカルパス、注射オーダーなど一覧でチェック、指示内容のエラーチェック、実施漏れがないように管理できるようになりました。医師からの指示、未確認、未実施が一覧でわかりやすい、メンバーとしてもリーダー業務としても活用できるものも多いでしょう。院内の電子カルテが入っているパソコンであればどこからでも、複数人でもアクセスでき、ナビゲーションシステムで他職種への依頼、情報共有などもしやすく、文書管理で日々の記録や看護計画からサマリー作成をしやすくなったことも日々の看護師業務の手助けとなっています。

事例2:遠隔診療支援システム

心電計や血圧計、体重計、パルスオキシメーターなどを通して生体データをリアルタイムに収集、蓄積し、遠隔地にいる医師や看護師が状態を確認できるものです。また、オートアラートとビデオ通話によって、遠隔で生体データと組み合わせてより正確な患者さんの状況を把握することができるものもあります。そして、これらの情報を連携機関と共有することも可能です。これらの活用により、在宅診療の負担軽減や在宅診療の質の向上につながっています。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オンラインによる診療の導入が進み、国としてもより支援体制の強化を図っています。

医療ICTの現状と課題

平成29年の電子カルテシステムの普及率は、一般病院で46.7%、一般診療所では41.6%となっています。平成20年の一般病棟では14.2%、一般診療所では14.7%の普及率からみると、大幅に導入率が高くなっていることがわかります。また、一般病院におけるデータ(平成29年)を病床規模別にみると、400床以上の病院では85.4%、200~399床の病院では64.9%、200床未満の病院では37.0%となっており、大病院であればあるほど電子カルテシステムを導入している割合が多いことがわかります。

医療従事者間の情報共有の活性化のメリットは、現場で働いていても実感できることでしょう。しかし、標準化やテンプレートされたものだけでは看護師の意図や患者の個別性に対する工夫が表現しにくいことや、部署によっては情報伝達において補えきれない部分もあり、現状としてもワークシートなどの紙運用を平行しているところもあります。その他のICT化の取り組みに関しては十分に普及しておらず、院内の情報共有のみにとどまっていることが多いようです。企業と連携している大病院、大学病院などでは、グループ内で連携して医療ICT化に積極的に取り組んでいるところもありますが、院外や地域の連携機関との情報共有、労働時間の短縮といった効果はまだ現場レベルでの実感としては薄いかもしれません。医療ICT普及の程度が地域や医療機関によって環境がさまざまであることが大きな課題です。

医療ICTを理解して、効果的に活用を

医療ICTをうまく活用することで、医療従事者にとっても患者さんにとっても、負担を減らし、より業務や治療に専念でき、適切な治療を受ける環境を作ることができます。しかし、ICTの基本的なことを知らなければ、自分の働く環境でいま活用されているICTや、新たに導入されるICTに適応することも難しくなります。まずは医療ICTの特徴や利便性を知り、柔軟な働き方や業務の効率化が行えるように、情報をアップデートしていきましょう。

参考

  1. 医師に役立つIT活用術 海外の医療×ICTから見える未来の医療(e-MR医療関係者向け製品情報サイト)
    https://e-mr.sanofi.co.jp/useful/medical_it/medicalapps_vol30
  2. 第2章 医療分野におけるICTの利活用の在り方
    https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/chousa/iryou_ict/pdf/060323_2_02_3.pdf
  3. MBA用語集 リエンジニアリング(グロービズ経営大学院)
    https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12041.html
  4. 医療分野で活躍するVR(MEDIUS HOLDINGS)
    https://www.medius.co.jp/asourcetimes/06-3/
  5. Q. IT、ICT、IoTとは何ですか?(チエネッタ NTT西日本)
    https://flets-w.com/chienetta/technology/cb_otherl32.html
  6. 医療分野におけるICTの利活用策一覧
    https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/chousa/iryou_ict/pdf/060323_2_02_s2.pdf
  7. 病院用電子カルテシステム MI・RA・Is/AZ(東京メディコムホールディンクス株式会社)
    https://www.tokyo-medicom.co.jp/mirais.html
  8. 遠隔診療支援プラットフォーム セコムVitalook(セコム医療システム株式会社)
    https://medical.secom.co.jp/service/ict/vitalook/
  9. 電子カルテシステム等の普及状況の推移(医療施設調査 厚生労働省)
    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000482158.pdf
  10. 第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋(総務省)
    https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc114810.html
  11. 電子カルテがもたらした看護への影響
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssd/64/0/64_2/_pdf

白石弓夏
この記事を書いた人
白石弓夏
1986年千葉県生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟でも勤務中。2020年11月には9人の看護師にインタビューした著書『 Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~(メディカ出版)』を発売。

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