災害支援ナースになるには?役割・活動内容からDMATとの違いまで

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災害大国ともいわれるこの日本において、災害医療の重要性は年々増してきています。そのなかで『災害支援ナース』と呼ばれる職業が注目されています。今回は災害支援ナースの活動内容や待遇、災害支援ナースになるための条件などをまとめました。

災害支援ナースとは

災害支援ナースとは、日本看護協会が以下のように定義して記載しています。

看護職能団体の一員として、被災した看護職の心身の負担を軽減し支えるよう努めるとともに、被災者が健康レベルを維持できるように、被災地で適切な医療・看護を提供する役割を担う看護職のことです。

災害支援ナースは都道府県看護協会に登録することで活動できます。大規模自然災害時に、日本看護協会が都道府県看護協会と連携して、災害支援ナースを被災地へ派遣しています。

災害支援ナースの主な活動内容

災害支援ナースの活動内容は、大規模自然災害で被災した医療機関や社会福祉施設、避難所などを優先とした看護活動です。主な看護活動としては、医療・介護が必要な避難者への心身のケア、感染管理や環境衛生などのほか、他職員と連携して保健・医療・福祉の視点で被災地の支援を行います。

大規模自然災害が発生すると、災害の規模などに応じて災害レベルを1~3に区分します。災害レベルが1にあたる場合は被災地の都道府県看護協会から災害支援ナースが派遣されます。災害レベル2を超えると、日本看護協会が災害支援ナースの派遣調整を行います。

災害時支援の対応区分
災害対応区分災害支援ナースを派遣する看護協会派遣調整
レベル1(単独支援対応)
被災県看護協会のみで看護支援活動が可能な場合
被災県看護協会が災害支援ナースを派遣する被災県看護協会
レベル2(近隣支援対応)
被災県看護協会のみでは看護支援活動が困難または不十分であり、近隣県看護協会からの支援が必要な場合
被災県看護協会および近隣県看護協会が災害支援ナースを派遣する日本看護協会
レベル3(広域支援対応)
被災県看護協会および近隣県看護協会のみでは看護支援活動が困難または不十分であり、活動の長期化が見込まれる場合
全国の都道府県看護協会が災害支援ナースを派遣する 

直近では、西日本豪雨と熊本地震で災害支援ナースが派遣されました。

西日本豪雨(2018年7月)

岡山県と広島県、愛媛県の看護協会で県内派遣(レベル1)から開始し、岡山県と広島県では近隣県派遣(災害対応区分レベル2)に切り替え、香川県や大阪府、兵庫県、福岡県、山口県、徳島県から派遣を開始しました。

西日本豪雨(平成30年7月豪雨)に関する情報

熊本地震(2016年4月)

日本看護協会は地震発生直後に危機対策本部を設置し、熊本県看護協会をはじめ各都道府県看護協会と連携して支援活動を行いました。災害対応区分としてレベル1~3まで、熊本県看護協会延べ273名、日本看護協会延べ1,688名、計1,961名の災害支援ナースを避難所に派遣。約2カ月間対応にあたりました。

「平成28年熊本地震」に関する支援活動

災害支援ナースの活動時期は災害発生後3日以降から1カ月間を目安としています。また、個々の派遣期間は原則として移動時間を含め3泊4日となっています。

災害支援ナースになるには研修や資格が必要?登録のための要件

災害支援ナースは資格ではありません。都道府県看護協会に登録することで活動できますが、登録のために一定の要件を満たす必要があります。

登録のための要件

  • 都道府県看護協会の会員であること
  • 実務経験年数が5年以上であること
  • 所属施設がある場合には、登録に関する所属長の承諾があること
  • 災害支援ナース養成のための研修を受講していること

また、災害支援ナースとして登録する際に満たすことが望ましい条件は、以下の通りです。

  • 定期的(1年に1回程度)に本会または都道府県看護協会で開催する災害看護研修もしくは合同防災訓練への参加が可能であること
  • 災害看護支援活動も補償の対象に含まれる賠償責任保険制度に加入していること
  • 帰還後に都道府県看護協会が主催する報告会・交流会などへの参加が可能であること

※ただし、都道府県看護協会長が特別の事情があると認めた場合には、以下の要件にかかわらず登録を認めることができます。

登録した後は、各都道府県看護協会が定める災害支援ナースの登録期間に沿って、定期的な更新(都道府県看護協会によって異なるが主に2~3年ごと)が必要です。

カリキュラムと研修内容

災害支援ナースの登録要件には「災害支援ナース養成のための研修を受講していること」とあります。この要件は、災害支援ナースが活動するにあたり習得しておくべき知識や能力を記載した『災害支援ナース育成研修プログラム』を受講することで満たされます。

本プログラムは登録の要件であるPart1「災害支援ナースの第一歩~災害看護の基本的知識」と、登録に当たって受講していることが望ましい研修であるPart2「●●県看護協会災害支援ナース育成研修」、指導者育成を目的とした「企画・指導者研修」の3つから構成されています。ここではPart1とPart2のプログラム内容を紹介します。

Part1「災害支援ナースの第一歩~災害看護の基本的知識」

研修時間2日間(12時間)

  • 災害医療の基礎知識
  • 災害時に求められる看護支援活動
  • 災害時の感染対策
  • 災害時の心理的変化とこころのケア
  • 看護協会の災害時看護支援活動
  • 災害時の他職種の役割と連携
  • 災害支援ナースの活動の実際など

Part2「●●県看護協会災害支援ナース育成研修」

研修時間1日間(6時間)

  • ●●県看護協会における災害時看護支援活動
  • 災害支援ナースの派遣の概要
  • 災害支援ナースの活動の実際など

細かな研修受講内容については、各都道府県の看護協会によって異なるため、ホームページなどで確認してください。

災害支援ナースの給料・待遇からキャリアは?

災害支援ナースに登録したからといって、通常業務で給与や手当などに特別な待遇が出ることはないようです。しかし、派遣要請があったときには、勤務の調整を優先させてもらえたり、必要な交通費・宿泊費や日当についてはレベル1~3ごとに都道府県の看護協会または日本看護協会から支給されたりします。ただし勤務先によっては災害支援ナースの活動を出張扱いとするケースもあり、上記が適用されないこともあるので注意が必要です。

災害支援ナースは普段、大学病院や総合病院、クリニック、訪問看護ステーション、看護学校、施設、役所などで働く看護師が登録しています。

災害支援ナースに向いている人は?

資格取得の条件とは別に、災害支援ナースとして必要な素養についてまとめました。

  • チームワークの重要性を理解できる
  • 現場リーダーの指示に従い、その場のスタッフと協力できる
  • 指示待ちではなく、自ら状況を把握してできることをする姿勢がある
  • 自分自身の健康管理を行うことができる

災害支援ナースには、災害看護の知識や技術だけでなく、上記のように協調性や主体性、実行力、健康管理、ときにはリーダーシップが必要とされます。

災害時には活動する環境が整えられているわけではなく、自分で自分のことは行うことが基本となります。予想外の出来事も多く発生するため、状況に合わせて自分がどのように動くべきかを判断し、冷静に行動できることが大切です。

DMATとはどう違う?災害看護専門看護師との違いは?

災害医療にかかわる看護師には、ほかにもDMAT(災害派遣医療チーム)や災害看護専門看護師があります。災害支援ナースとの違いを見ていきましょう。

DMAT(災害派遣医療チーム)

災害医療で知名度が高いのはDMAT(災害派遣医療チーム)ではないでしょうか。DMATは医師や看護師、業務調整員(医師看護師以外の医療職、事務職員)で構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故現場などにおいて急性期(災害サイクルフェーズ0~1)から活動できる専門的な訓練を受けた医療チームです。資格や活動内容など、災害支援ナースとの違いについて以下にまとめました。

災害支援ナースとDMATの違い
  災害支援ナース DMAT
要件 ・5年以上の実務経験
・2日間(12時間)の研修を修了
災害拠点病院に勤務する看護師
登録、資格取得 研修を修了し都道府県看護協会に登録 DMATを統括する国立病院機構災害医療センターで2日間、『日本DMAT隊員養成研修』を受け、合格する
要請、派遣時期 災害発生3日以降~1カ月間
(災害サイクルフェーズ2~3以降)
要請を受けて48時間以内に駆けつける
(災害フェーズ0~1)
活動の場 ・医療機関者社会福祉施設
・避難所
・災害現場
・医師・看護師・業務調整員など3~5人でチーム編成

災害看護専門看護師

災害看護専門看護師は2017年からスタートした比較的新しい資格です。以下を特徴とする専門看護師の分野のひとつです。

災害の特性をふまえ、限られた人的・物的資源の中でメンタルヘルスを含む適切な看護を提供する。平時から多職種や行政等と連携・協働し、減災・防災体制の構築と災害看護の発展に貢献する。

災害看護の現場で活躍するのはもちろん、自施設の災害対策チーム会の年間計画の見直し、災害訓練や教育研修を行うなど、幅広く活動できます。災害支援ナースやDMATが実際に災害現場へ派遣されて活動を行うのに対し、災害看護専門看護師は平常時からスタッフの災害教育や被災者の診療を継続的に行えるような自施設の災害対策や体制づくりに取り組むことができるのが特徴です。

看護師キャリアの選択肢に災害支援ナースを加えても

災害支援ナースは、大規模自然災害が発生した被災地に派遣され、医療機関や避難所などで看護活動を行います。日頃実践している看護ケアだけではなく、災害に関する幅広い知識や技術が必要ですが、認定看護師などの資格取得を求められるものではありません。キャリアの選択肢のひとつとして、こうした専門性を磨くこともぜひ検討してみてください。

【参考】

災害支援ナース(福岡県看護協会)

p.5 災害支援ナース派遣要領(日本看護協会)

災害支援ナース育成研修プログラム(2021年度改訂)(日本看護協会)

DMATとは(厚生労働省DMAT事務局)

災害支援ナースポケットマニュアル(富山県看護協会)
災害サイクルp.4、5

専門看護師(日本看護協会)

専門看護師の活動事例紹介
窪田直美さん 災害看護専門看護師(日本看護協会)

災害看護(日本看護協会)

令和3年度災害支援ナース登録実積(福岡看護協会)

災害支援ナース必携マニュアル(長野県看護協会)
p.6 災害支援ナースとしてのこころがまえ

災害支援ナース 実践マニュアル(宮城県看護協会)
4.望まれる資質

白石弓夏
この記事を書いた人
白石弓夏
1986年千葉県生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟でも勤務中。2020年11月には9人の看護師にインタビューした著書『 Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~(メディカ出版)』を発売。

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