代替医療とは?看護師が覚えておきたい基礎知識から活用法まで

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皆さんは代替医療をご存知でしょうか。看護師の多くは西洋医学を中心に学びますが、医療の世界には、「代替医療」と呼ばれるものも存在しています。近年では外来や緩和ケアなどに代替医療を取り入れる病院も増えてきました。看護師として代替医療について正しく理解していきましょう。

代替医療とは

代替医療とは言葉の通り、現在西洋医学に代替する医療のことを指します。代替医療の成り立ちやどのようなものなのか、どんな場面で活用できるのかなど説明していきます。

代替医療の概要

代替医学、代替医療という言葉は、馴染みのない言葉かもしれません。現代西洋医療を通常医療とした場合、その範疇にふくまれないさまざまな医学や施術などが「代替医療」と呼ばれています。たとえばがんやアレルギー疾患、精神疾患のように、西洋医学だけでは克服しきれない症例は少なくありません。そうした疾患に対し、鍼灸やマッサージ、ヨガや太極拳、漢方やハーブ療法など各種伝統療法や民間療法が「代替医療」と呼ばれ活用されています。

アメリカではalternative medicine(代替医学)またはComplementary and Alternative Medicine(代替・補完医学)、ヨーロッパではcomplementary medicine (補完医学)という言葉が使われており、日本語訳自体にはばらつきがあります。補完医療は西洋医学を補う、補完する医療のことを指します。近代西洋医学以外の医療として伝統医学、自然療法、音楽療法、温泉療法など多くのものがあり、これらを相補・代替医療または補完代替医療(CAM)と呼んでいます。最近では、この補完代替医療と西洋医療をうまく組み合わせ、患者中心の医療を行うものを、『統合医療』としています。近代西洋医学と対立的に考えるのではなく、両者をうまく組み合わせ、より大きな効果を期待する新しい医療の概念として注目されています。


【参考】厚生労働省 「統合医療」の在り方に関する検討会資料

こちらの図では、国家資格に組み込まれている代替医療と、そうでないものの例が挙げられています。国家資格を要するものには鍼灸、一部の漢方医学などが含まれ、資格を必要としないものにはヨガやアロマテラピーから温泉療法などが含まれています。このように代替医療は、国が認めているものばかりではありません。症例数や科学的根拠が少ないために、治療成績や実績が出しにくいものが多いことも事実です。なかには高額なものや、健康被害が出ているものなどピンからキリまであるため、ネガティブなイメージを持たれる理由のひとつとしても考えられます。

西洋医学との違い

西洋医学は患者さんの状態を科学的・局所的および理論的に分析し、病気の診断を行い、症状の原因となっている病巣や病因を投薬や手術などで根本的に取り除く治療を行う医学です。診断には身体診察や問診、各種検査など客観的なデータを駆使するため、原因が明確な病気の治療に有効です。

一方、代替医療の多くは自然治癒力を高める療法を行うので、原因のはっきりしない病態に対して有効だと言われています。古くから日本になじみのある東洋医学を例に挙げます。東洋医学では患者さんの状態を独自の診察法で観察し、健康な状態からどのようにバランスを崩しているのかを判断して、健康な状態へとバランスを整えるために漢方薬や鍼灸治療などを用いて治療を行います。病気を根本的に治療する西洋医学とは異なり、病気を未然に防ぐために健康な状態の維持を目的とするところが特徴と言えるでしょう。

代替医療の種類は?

代替医療には、鍼灸やカイロプラクティックなどのように日本でも身近なものとして一般的にも広く知れ渡っているもののほか、以下のような分類があります。

代替医療の分類一覧

全医療系 アーユルヴェーダ、中国伝統医学、ナチュロパシー、ホメオパシー
生物学に基づく実践 ハーブ(ボタニカル)、ビタミン、ミネラルなど植物薬および天然製品、キレート療法、食事療法
心身療法 バイオフィードバック、誘導イメージ療法、催眠療法、瞑想・マインドフルネスを含むリラクゼーション
マニピュレーションや身体をベースにした実践 カイロプラクティック、マッサージ、リフレクソロジー、カッピング、カッサ(例:コイニング、スプーニング)、灸療法
エネルギー療法 鍼治療、磁気療法、セラピューティックタッチ、レイキ

代替医療はどんな場面で活用できる?

代替医療が実際にどのような場面で活用されているのか紹介していきましょう。

緩和ケア病棟でアロマテラピーの導入

『がん補完代替医療クリニカル・エビデンス(2016年度版)』によるとアロマテラピーは以下のように定義されています。

”アロマテラピーとは、「エッセンシャルオイル (精油) を用いて、疾病の治療や予防、心身の健康やリラクセーション・ストレスの解消などを目的とする療法である」”

とある緩和ケア病棟では、入院されている患者さんの症状緩和やリラクゼーションを目的として、アロマトリートメントとしてマッサージを行ったり、手浴や足浴の際に使用したり、パジャマや枕元に芳香浴として使用するなどしています。看護師の資格を持ちながら、アロマテラピーの資格を勉強する人も多いです。

認知症病棟での音楽療法の導入

日本音楽療法学会は、音楽療法を以下のように定義しています。

”音楽療法を「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」”

とある認知症病棟では、音楽療法士や作業療法士とともに、入院患者を対象に楽器を配って合奏したり、一緒に歌を歌ったり、音楽に合わせて踊るなど集団で音楽療法を行っています。

施設入所されている方へのアニマルセラピーの導入

アニマルセラピーは、動物と人との交流がもたらす健康、自立、生活の質の改善を目的に、補助療法、非薬物療法あるいはケアの一環として臨床で行われている活動です。とある施設では、アニマルセラピーとして利用者が犬と触れ合う機会を設け、ともに食事をしたり、運動したりと生活しているところもあります。こうした施設に派遣される“セラピードッグ”のほか、心のケアを目的として病院や学校などの施設に派遣される特別な訓練を受けた“ファシリティドッグ”というシステムも存在します。ファシリティドッグはハンドラー(犬をコントロールする役割)だけでなく、臨床経験のある看護師とも行動を共にし、治療へのかかわりを主体とすることが特徴です。

代替医療のメリットとデメリット

かつて日本の医学界は西洋医学一辺倒でした。近年では欧米における統合医療の影響を受けて、日本でも統合医療の在り方を検討し、取り入れる機会が徐々に増えています。代替医療のメリットとしては、天然・自然由来のもので様々な種類があり、副作用が少ないという点があります。また、症状が和らぐだけではなく、気持ちも安心し、安らぐことができるなどの精神的な面においてもメリットがあります。

一方デメリットは、療法によってははっきりとした科学的な根拠がないものや長期間かかるもの、効果がみられない、高額なお金がかかってしまうものなどもあることです。なかには、標準治療の効果を阻害してしまうものもあるため、代替療法を取り入れる際には、患者さんの状態に合うかどうかをしっかりと見極める必要があります。

看護師における代替医療知識の必要性は?

認定看護師教育基準カリキュラムでは「補完代替療法に関する相談に応じられるようになる」ことが挙げられるなど、これからの看護師には代替医療の知識が必要となってくるかもしれません。とくに在宅医療が拡大している昨今では、医師や設備が整った病院だけでなく、訪問看護や施設で働く看護師は増えていくでしょう。そうした現場では代替医療が選択肢のひとつになる可能性は大いに考えられます。看護師は「患者さんが病気や症状に対して抱く不安や疑問についての相談窓口」という重要な役割も担っています。ですから、患者さんが代替医療の利用を希望したときは、なぜ利用したいと考えたのか経緯について話を聞くことも大事です。現在の治療にどのような不安や疑問があるのか、場合によっては対処方法を変更することで代替医療の必要がなくなることもあるかもしれません。代替医療を利用するにしても、看護師はメリットとデメリットを合わせて慎重に検討する必要があります。代替医療に関して知識として身につけておくことは決して損にはならないでしょう。

代替医療の知識を理解して活用する

代替医療についてネガティブなイメージがある看護師も多いかもしれません。しかし、西洋医学や標準治療に加えて外来や緩和ケアなど医療の現場でも代替医療は少しずつ浸透してきています。看護師として患者さんに適切な説明を行えるように、代替医療について正しく理解して、患者さんの状態に合わせてうまく活用していきましょう。

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【参考】

「統合医療」とは?(厚生労働省)

代替医学・医療とは(日本補完代替医療学会)

これまでの議論の整理 「統合医療」のあり方に関する検討会

補完・代替医療の種類

がんの補完代替医療 クリニカル・エビデンス(2016年度版)

統合医療とは?(日本がん難病サポート協会)

白石弓夏
この記事を書いた人
白石弓夏
1986年千葉県生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟でも勤務中。2020年11月には9人の看護師にインタビューした著書『 Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~(メディカ出版)』を発売。

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