退院調整看護師とは?役割と必要な資格を解説

全て表示

eyecatch

退院調整看護師は入院患者が在宅療養を始めるまでの患者さんや家族の環境を調整する専門の看護師です。今回は病棟看護師や医療ソーシャルワーカーとの業務内容の違いと、給料・キャリアのイメージを解説します。

退院調整看護師とは

退院調整看護師とは、入院患者が在宅療養を始めるまでの患者や家族の環境を調整することを専門分野とする看護師のことで、地域医療連携室など退院調整業務を扱う部署で活躍しています。「担当している入院患者が退院することになった」、「自宅退院に向けて、訪問看護などのサービス利用が必要」など、患者の退院の目処が立つと、退院調整看護師は在宅療養に向けての支援を始めます。

退院調整看護師の主な役割は、退院後に必要な社会資源は何か、介護・医療保険など必要となる制度の申請手続きは行っているかを中心に、専門的な目線でサポートすることです。また、患者さんや家族が退院に対して不安に感じていることや、退院後どのような生活を過ごしていきたいと考えているのかという希望も聴き取ります。そして、必要な社会資源へ繋げ、関係職種で共有するといった調整役も担っています。

退院調整看護師の業務内容

退院調整看護師の業務内容は、具体的にどのようなものがあるのか、時系列ごとに紹介します。

1:患者さんの入院時

退院調整看護師は、患者さんの入院が決定した時点から介入を行います。具体的には、退院支援スクリーニングとアセスメントシートを用いたアセスメントと、必要時のカンファレンスの実施です。病院ごとにスクリーニング・アセスメントシートがあり、入院決定から入院後48時間以内を目安にシートを用いたアセスメントを行います。スクリーニング・アセスメントシートには、入院に至った経緯や現在のサービス利用やADL・IADL状況をチェックする項目や、現在の患者さん・家族の思いを記載する項目があり、今後退院に至る際にどのような支援が必要なのかを段階的に判断することができます。
スクリーニング・アセスメントシートの実施は、病院によっては病棟看護師が行うことがあります。アセスメント実施後にカンファレンスが必要となった場合には、退院調整看護師がチームの調整役を担い、在宅チームである在宅医や訪問看護師などに参加の依頼を行います。カンファレンスでは、チーム内での情報共有を図り、退院に向けて、現状での問題の洗い出しと目標共有を図ります。

2:退院前カンファレンスの実施

病院での治療が終わり、退院の目処が立つと、退院前カンファレンスを実施します。在宅に帰れる状態を目指すことを目標に、患者さんや家族、退院後に関わる可能性のある在宅医や訪問看護師などの在宅チームにも参加してもらい、退院後の生活をイメージしながらチームで話し合いを行います。

3:社会資源の調整

退院後に訪問診療や訪問看護、デイサービスなどの社会資源が必要となるかを検討し、在宅チームと随時連絡を取り合います。社会資源を調整する際の一番の目標は、切れ目のないケアを提供することです。訪問看護を利用する際には、医療保険か介護保険のどちらの制度での利用の適応になるのか把握し、患者さんや家族にとってより良い支援を検討していきます。

4:退院時支援とモニタリング

退院から数日が経過した後に、在宅チームのスタッフに患者さん・家族の状況を確認します。退院後の生活状況がどのような状態なのか把握することで、退院調整の評価を行うことができます。また、良かった点・今後改善していくべき点について、関わったスタッフで情報共有を図ることで、モチベーションのアップと次回の支援へ活かしていくことができます。

退院調整看護師の1日のスケジュール例

退院調整看護師の1日のスケジュール例を紹介します。

スケジュール

8:30 勤務開始・情報収集
ホワイトボードなどに記載された当日のカンファレンスや会議の予定を確認します。

9:00 退院調整の実施
退院調整が新規で始まる患者さんの情報収集や継続して退院調整を行っている患者さんのサービス調整を行います。

11:00 MSWと退院調整について情報共有
医療ソーシャルワーカーと患者さんの情報をお互いの視点を交えながら情報共有します。

12:00 休憩

13:00 患者家族との面談
面談を行い、退院に向けての希望や不安な点について聴き取りを行います。

15:00 病棟カンファレンスの参加
入院時・退院前カンファレンスに参加し、病棟看護師などの他職種と情報共有します。

15:40 退院調整の実施
カンファレンス後に、退院に向けて必要となる社会資源の調整を図ります。

17:00 記録
今日行った内容を記録します。

17:30 退勤

退院調整看護師と病棟看護師・医療ソーシャルワーカー(MSW)との違い

退院調整看護師は、病棟看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)とどのように違うのでしょうか。また、退院支援看護師という名称も耳にする方が多いと思いますが、退院調整と退院支援の違いはあるのでしょうか。退院調整と退院支援の違いや、病棟看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)との役割の違いについて解説します。

退院調整と退院支援の違い

退院調整と退院支援に関しては、それぞれ定義が定められています。

退院調整とは、「患者の自己決定を実現するために、患者・家族の意向を踏まえて環境・ヒト・モノを社会保障制度や社会資源につなぐなどのマネジメントの過程」と定義されています。
一方退院支援は、「患者が自分の病気や障害を理解し、退院後も継続が必要な医療や看護を受けながらどこで療養するか、どのような生活を送るかを自己決定するための支援」と定義されています。

引用:宇都宮宏子,三輪恭子,これからの退院支援・退院調整−ジェネラリストナースがつなぐ外来・病棟・地域,日本看護協会出版会,2011

病棟看護師との違い

退院調整看護師は、退院に向けての調整を行う役割を担い、病棟看護師は退院に向けて必要なケアを指導・サポートする役割を担います。退院調整看護師は、他職種や患者さん・家族との調整役として電話対応が多くなります。退院に向けた調整役を担うのが退院調整看護師、退院に向けて患者さん・家族に直接的なサポートを行うのが病棟看護師というイメージです。

医療ソーシャルワーカー(MSW)との違い

退院調整看護師と医療ソーシャルワーカー(MSW)の違いは、患者さんをどのような視点で把握するかという点にあります。両者とも患者さんの退院調整に携わる職種であることに違いはありませんが、退院調整看護師は、看護師として患者さんの身体状態を予測した上で退院後の生活を把握します。
一方で、医療ソーシャルワーカー(MSW)は患者さんと家族の関係性から退院後の生活を把握します。看護師と医療ソーシャルワーカー(MSW)、それぞれが持つ専門的な目線をお互いに共有しながら退院調整を行っていきます。

退院調整看護師の給料

令和2年賃金構造基本統計調査によると退院調整看護師の給料は年収550〜650万円ほどとなります。一方病棟看護師の給料は年収500万円ほどです。退院調整看護師の給料の方が高いのは、経験年数によるためです。退院調整看護師として働く看護師は、ほとんどが経験年数10年以上の看護師となります。病棟看護師は、経験年数が10年以上の看護師だけでなく新人看護師も多く働いているため、平均でみると病棟看護師の年収は500万円ほどとなります。
では、経験年数が同じ場合での退院調整看護師と病棟看護師の給料に違いはあるのでしょうか。経験年数10年以上の病棟看護師の平均年収は600〜700万円ほどとなり、退院調整看護師の給料を上回ります。これは、病棟は夜勤があり、夜勤手当てが貰えるためです。退院調整看護師は夜勤がないため、総平均年収で見ると経験年数が同じである病棟看護師の方が高く見えますが、夜勤手当分を引くと年収は同じです。

退院調整看護師になるには?必要な能力や知識

退院調整看護師を目指す方に向け、必要な能力や知識を解説します。

退院調整看護師に必要な資格はある?

退院調整看護師になるために必要な資格は特にありません。大きな病院で勤務していると、経験がない状態で外科や小児科など様々な診療科へ異動という形で配属されますが、退院調整看護師も同様です。経験がない状態で、退院調整看護師として地域医療連携室などへ配属されることがあります。
言い方を変えれば、他の診療科への異動と同様に、看護師なら誰でも退院調整看護師として働くことができるわけです。
しかし、退院調整を行うためには、ある程度の実務経験と退院後の生活をイメージできるための在宅医療や地域連携の経験や知識が必要となります。そのため、退院調整看護師として働いている人は、他病棟で師長や主任を経験した人や、訪問看護の経験のある人が担当しているケースがほとんどです。
もちろん、師長や主任、訪問看護の経験があるから誰でも向いているというわけでもありません。退院調整を行うためには、患者さんや家族が退院後の生活をどのように考え、今後どうしたいのかを聞き出す力が必要です。また他職種と情報共有を図り、必要なサービスへ繋げられる調整役やマネジメントを図ることが好きな人には特に向いている職種と言えます。

スキルアップのための研修や資格

退院調整看護師としてスキルアップするためには、各県の看護協会が主催している退院支援看護師プログラムの研修を受講するか、退院調整に関連する認定看護師や専門看護師の資格を取得する方法があります。退院支援看護師プログラムは退院調整に必要な知識について講義やグループワークを通して学ぶことができ、実践に活かすことができます。認定看護師や専門看護師の資格取得は、退院調整のみの認定・専門分野はありません。しかし、退院調整に関連する家族看護や在宅看護、緩和ケアなどの資格を取得して、その分野の専門性を活かしながら退院調整看護師として働く看護師もいます。

退院調整看護師をキャリアアップの選択肢に

退院調整看護師は、退院に向けて患者さんや家族の意向を医療ソーシャルワーカーと共同して把握し、病棟看護師などの他職種と情報共有を図る、退院調整とマネジメントのスペシャリストです。患者さんや家族の意向を聴き取る力と様々な職種と関わるためのコミュニケーション力、退院後の生活をイメージできる在宅医療の知識など様々な力が必要となります。退院調整看護師になるための資格は必要なく、調整役やマネジメントを担うことが必要な人には特に向いている分野です。さらに、各都道府県の看護協会が主催している研修や認定・専門看護師の資格を取得することでキャリアアップが図れます。一つのキャリアの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。

参考

  1. 一人ひとりの看護職が行う退院支援マネジメントガイドライン②(公益社団法人山梨県看護協会)
  2. 令和2年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)

米原亜矢子
この記事を書いた人
米原亜矢子
2011年宮崎県立看護大学卒業、看護師・保健師免許取得。同年に鹿児島市立病院入職。内科、外科、訪問看護、療養病棟、小児などを経験。2021年フリーランスへ転向。現在、看護師の経験を活かしWebライターやブログ執筆を行っている。

ナース転職求人を知りたい方

こちらの記事もおすすめ