慢性期看護の特徴と役割。大切なことから看護師のやりがいまで

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慢性期看護の特徴は、長期にわたり療養が必要な患者さんを看護することです。病状の悪化を防ぎ、日常生活を支える役割を持つ慢性期の看護には、急性期や回復期とは異なるやりがいがあります。本記事を通じて慢性期看護の大切なことや、仕事内容を理解しましょう。

慢性期とは

慢性期とは、病状は比較的安定しているが、治癒が困難で病気の進行は穏やかな状態が続いている時期を言います。

厚生労働省では、慢性期機能について以下のように定義しています。

・長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能
・長期にわたり療養が必要な重度の障害者(重度の意識障害者を含む)、筋ジストロフィー患者又は難病患者などを入院させる機能

引用:慢性期機能を有する病床の機能分化・連携の推進について 第16回地域医療構想に関するWG

慢性期は高齢の入院患者さんが多く、疾患別に見ると認知症や脳血管疾患、転倒による骨折などの患者さんが多い傾向です。これらの疾患はいわゆる「寝たきり」や廃用症候群の原因となり、経管栄養や喀痰吸引、褥瘡の処置を必要とする患者さんが多くいます。今後も高齢化は加速することが予測され、慢性期医療や介護ニーズの増加が見込まれています。

また、慢性期の場合、看護師が働く場所は病院だけに限りません。病院のほか、慢性期機能を持つ施設で働いている看護師もいます。

参考:2019年 国民生活基礎調査の概要40p「第15表 現在の要介護度別に見た介護が必要となった主な原因の構成割合」

慢性期患者を対象とした入院・入所施設の種類

慢性期の患者さんを対象とした療養病床には、下記の施設があります。

医療療養病床(療養型病院)

医療療養病床は病院・診療所の病床のうち、「主として長期療養を必要とする患者を入院させる」ための施設です。褥瘡処置や吸引など、継続した医療処置が必要な方が入院します。医療保険適応の病床であり、看護職員の配置基準が20対1と25対1が混在しています。

2018年に厚生労働省が発表した調査によると、病床数は全国で20対1基準のところが15.1万床、25対1基準のところが6.6万床あります。80歳以上の方が約6割で要介護4~5の方が半数以上、ADLは区分3の方が5~6割です。

介護療養病床

介護療養病床は病院・診療所の病床のうち、「長期療養を必要とする要介護者に対し、医学的管理の下における介護、必要な医療等を提供する」病床です。医療保険上の病床と介護保険上の病床があり、全国に5.5万床あります。

しかし、厚生労働省の調査の結果、医療療養病床と介護療養病床で入院患者の状況に大きな差が見られなかったため、介護療養病床の廃止が決定しました。2024年3月が廃止および転換期限ですが、新設は認められていないため病床数は年々減少しています。

介護療養病床に入院している患者さんの約8割が80歳以上で、要介護4・5の方が約7割程度となっています。ADLは区分2の方が約3割、区分3の方が5割程度です。

介護老人保健施設

介護老人保健施設「要介護者にリハビリを提供し、在宅復帰を目指す施設」です。介護保険上の病床で、全国で約36.8万床あり、利用者の半数以上が80歳以上です。

医療療養病床や介護療養病床と比較するとADLは高く、区分1の方が半数程度となっています。要介護2から5の方の比率に大きな差はありません。

特別養護老人ホーム(特養)

特別養護老人ホーム(特養)は、老人福祉法上の呼称で、介護保険法では「介護老人福祉施設」と呼ばれます。在宅での生活が難しく、常時介護を必要とする高齢者に対し、入浴や排泄、食事の介助、生活援助を行います。施設により看取りまで対応が可能です。

2015年より新規の入所者は要介護3以上の高齢者に限定されるようになりました。ただし、やむを得ない事情がある場合は、特例として入所することができます。

全国に約56.7万床あり、ADLの区分2に該当する方が半数近くを占めます。

介護医療院

介護医療院は高齢化が進む中、慢性期医療や介護ニーズに対応するため2018年4月に創設された介護保険上の施設です。2021年3月末で全国の施設数は572施設、35442床あります。

主として長期にわたり療養が必要な高齢者に対し、施設サービス計画に基づき、療養上の管理、看護、医学的管理下の介護や機能訓練、その他の医療や日常生活の世話を行うことを目的としています。

参考:厚生労働省「介護医療院とは」
参考:慢性期機能を有する病床の機能分化・連携の推進について 第16回地域医療構想に関するWG

慢性期で働く看護師の役割と仕事内容

慢性期で働く看護師の役割と仕事内容について詳しく見ていきましょう。

慢性期で働く看護師の役割

慢性期で働く看護師の役割は以下の内容があります。

病状悪化の予防

慢性期の患者さんは心疾患や糖尿病、慢性腎不全など複数の疾患を抱えている人が多いため、少しの体調変化から全身状態の悪化につながる可能性があります。アセスメントをしっかり行い適切に看護する必要があります。

異常の早期発見

慢性期の患者さんの約半数は脳血管疾患であり、言語障害や嚥下障害により自ら苦痛や異変を訴えることが難しい人も多くいます。また、認知症や高齢の患者さんもうまく症状を伝えられない場合があります。「いつもと違う」ことに気づけるように、普段から患者さんをよく観察することが大切です。

入院中の生活援助

慢性期の患者さんの入院は長期にわたるため、病院や施設が生活の場になります。治療のみでなく、生活上の援助も患者さんを支えるために欠かせません。

慢性期で働く看護師の仕事内容

具体的に慢性期で働く看護師の仕事内容を見ていきましょう。

全身状態の管理

慢性期の患者さんは入院の原因となった疾患やけがのほか、複数の疾患が混在しています。例えば、脳梗塞で入院しているが高血圧や糖尿病の治療中というケースです。混在した疾患の看護も行わなければならないため、全身状態を適切に管理する必要があります。

日常生活の援助

高齢で日常生活の援助が必要な人が多いことも慢性期の特徴です。起床から就寝まで、食事や排泄、入浴などで介助を要します。患者さんの残存機能の維持、向上も考え、看護することが大切です。

合併症や廃用症候群の予防

患者さんのほとんどが高齢で要介護度が高いため、合併症や廃用症候群の予防も求められます。長期臥床は関節の拘縮や褥瘡の発生、誤嚥性肺炎などのリスクがあり、便秘にも注意が必要です。患者さんに合わせた個別性のある看護を行いましょう。

喀痰吸引・経管栄養

脳血管疾患や認知症などで、食べたり飲んだりすることが難しくなる患者さんも多く、吸引や経管栄養を必要とする場合があります。その場合、口腔ケアや喀痰吸引、経管栄養(経鼻・胃ろう・腸ろう)の管理を行います。

慢性期看護のやりがいやメリット

慢性期看護には、どのようなやりがいやメリットがあるのでしょうか。気になるポイントを見ていきましょう。

患者さんと向き合える時間がある

慢性期は症状の安定した患者さんが多いため、一日の流れが比較的穏やかであり、患者さんとじっくり向き合うことができます。関係性が構築されると、患者さんは病気以外のパーソナルなことも話してくれるようになります。一人ひとりの患者さんにしっかり向き合えることにやりがいを感じる看護師も多いようです。

患者さんを長期にサポートできる

慢性期の患者さんの入院は長期にわたります。2018年度の病床機能報告によると、急性期、回復期の平均在棟日数の中央値が13.5日、50.8日であったのに対し、慢性期は233.6日という結果になっています。

病院・施設を生活の場とするため、生活を支える視点での看護が重要です。退院後の生活について、本人、家族の意見をくみ取り、医師やリハビリスタッフ、管理栄養士、医療相談員など他医療スタッフと連携しながら長期的にサポートすることは慢性期ならではのやりがいといえるでしょう。

参考:厚生労働省「平成30年(2018年度)病床機能報告の結果について 第21回地域医療構想に関するWG」17p

ワークライフバランスを整えやすい

慢性期は急性期や回復期と比較すると、ワークライフバランスを整えやすいと言えます。急変や残業は少なめであるためです。夜勤の休憩は急性期、回復期より比較的取りやすい環境であることもメリットのひとつに挙げられます。

勤務形態は、三交代のところが多いですが、二交代の病棟は年々増加しています。働き方改革の取り組みも広まってきたため、心身の負担を考慮して働くことができ、ライフスタイルに合わせた働き方ができるようになってきました。

慢性期で働く上で大変なことやデメリット

次に慢性期で働く上で大変なことやデメリットについて解説します。

スキルアップを感じにくい

先に述べてきたように、慢性期は全身状態の管理や日常生活の援助、合併症や廃用症候群の予防の看護が中心です。急性期で経験するような医療的管理や技術は身につきにくいでしょう。

体を痛めやすい

慢性期の患者さんは介護度が高く、オムツ交換や体位交換、移乗の介助など負担のかかる援助が多いため、体を痛めやすいというデメリットがあります。腰痛や疲労が持続した状態であればぎっくり腰(急性腰痛)のリスクもあります。

慢性期の看護で大切なこと

慢性期の看護で大切なことをまとめました。

治療的側面のみでなく患者さんの人生に配慮した看護をする

慢性期の患者さんの多くは高齢の方です。患者さんそれぞれにこれまで生きてきた経験があり、慣れ親しんだ暮らしがあります。治療的側面のみでなく、敬う心を忘れずに患者さんの過去やこれからの人生に配慮して看護することが大切です。

基礎的な看護を大切にする

慢性期では生活を支える看護が中心であるため、飲食や排泄、休息などの援助が多くなります。生活の援助は慢性期に限らずすべてのステージの患者さんに必要な看護の基礎といえます。症状だけでなく患者さんの心情の変化にも気を配りながら看護を行いましょう。

退院後の生活を見据えて患者さん・家族と関わる

患者さんやその家族の生活は、病気によって変化します。退院後の生活を見据えて、患者さん、家族と関わらなければなりません。

たとえば、病気になる前は一人でトイレに行っていた患者さんが、骨折により一人ではトイレに行けなくなってしまった場合、退院後の自宅ではどう対応すべきかなど、介護をする家族のサポートも大切です。

また、退院後自宅での受け入れが難しい場合は施設の利用を検討する場合もあります。入院中の早い段階から、患者さんとその家族と一緒に退院後の生活を見据えたコミュニケーションを取りましょう。

患者さんに寄り添い想いをくみとる

ほとんどの入院患者さんは、病気を受容するまでに「なぜ自分がこんな病気になったのだろう」と考えます。特に慢性期の患者さんは治療が長引き、ネガティブな心境になっている人も少なくありません。

そんな患者さんの想いをくみとることも、慢性期で働く看護師にとって大切なことです。特別な声かけではなく、ただそばに寄り添うことも看護のひとつなのです。

慢性期に向いているのはどんな人?

慢性期に向いている人の特徴を4つ紹介します。興味のある方は参考にしてみてください。

患者さんとじっくり向き合いたい人

緊急の対応が少なく、時間の確保がしやすいため、患者さんとじっくり向き合いたいという人におすすめです。計画的な看護の実践や評価などを個別性に合わせ、定期的に行うことができるためです。また、一日の流れも穏やかであるため、コミュニケーションをとりやすいこともあげられます。

コミュニケーションスキルの高い人

患者さんの退院後の生活を見据えて看護を提供する慢性期では、他職種との連携が不可欠です。医師をはじめ、リハビリスタッフや地域の介護施設など、患者さんの生活を支える様々な医療スタッフと家族間の橋渡しになるような、コミュニケーションスキルがある人が活躍しています。多職種と連携し患者さんに合わせた計画が立てられれば、円滑な退院ができるでしょう。

ご家族にも配慮できる視野の広い人

介護をする家族が高齢であるケースが増えています。治療と介護が長期にわたる慢性期では家族の負担が大きいため、患者さん本人だけでなく、視野を広く持って看護ができる人に向いているでしょう。

ワークライフバランスを重視したい人

急性期や回復期に比べて残業が少なく、勤務体制が二交代のところも増えているためークライフバランスを重視したい人にも向いています。時短制度などを利用できれば、子育て中の人の勤務も可能でしょう。

慢性期では看護の基本を実践できる

慢性期は看護の基本を実践できるところです。急性期などと比較すると緊急対応や医療処置は少なく、スキルが身につきにくいと焦りを感じる人もいるかもしれません。長期にわたる療養が必要な患者さんに対し、病状の悪化を防ぎ、日常生活を支えるという慢性期における看護師の役割は、どのステージでも通用する看護の基本です。

慢性期は患者さんと向き合う時間が確保しやすいこと、退院後の生活を考えサポートできること、ワークライフバランスを整えやすいというメリットもあります。自身のキャリアプランにあわせて、異動や転職を考える際の参考にしてみてください。

北村由美
この記事を書いた人
北村由美
仙台市立看護専門学校を経て、東北厚生年金病院(現東北医科薬科大学病院)、一般財団法人三友堂病院 三友堂リハビリテーションセンターなどに勤務。正看護師資格のほか、保有資格はケアマネジャー、登録販売者、AEAJアロマテラピー検定1級など多岐にわたる。現在はフリーライターとして看護系や美容・健康記事などを執筆中。

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