看護師がセクハラから身を守るために。相談先や対処方法を紹介

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看護師はさまざまなシーンで対人コミュニケーションがある職業です。身体的接触も多いため、セクハラの被害を受けやすい職業でもあります。実際、ナース専科で行ったアンケートでは、約4割の看護師が何かしらのセクハラ被害を受けたことがあると回答しています。今回はセクハラの定義とともに、遭遇した時の相談先と対処方法を解説します。

看護師が被害にあいやすいセクハラの特徴と種類

「ハラスメント」の中の1つにセクハラがあります。日本看護協会が2017年に行った看護職員実態調査では、看護職の53%が過去1年間に何らかの暴力・ハラスメントを受けた経験があると回答しています。看護師は患者さんとの身体的接触も多く、無意識のうちにセクハラを受けている可能性もあります。

セクハラを行う正当な理由はなく、決して許されるものではありません。セクハラの定義や種類、どのようなセクハラが起こりやすいのか理解し、自分の身を守れるように備えましょう。

セクハラとは

セクハラとは、どのようなものでしょうか? 男女雇用機会均等法をもとにまとめると以下のように定義できます。

職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したり抵抗したりすることで解雇、降格、減給のような不利益を受けることや、性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じること

セクハラを行う人(行為者)は、雇用主、事業主、上司、同僚に限りません。取引先、顧客、患者、学校における生徒もセクハラの行為者になる可能性があります。

さらに、セクハラは女性だけでなく男性に対しても成立する人権侵害です。男性も女性も行為者にも被害者にもなる可能性があります。さらに、異性に対するものだけではなく、同性に対するものも当てはまることを覚えておきましょう。

セクハラの種類

セクハラは大きく「対価型」と「環境型」の2つにわけられます。

対価型セクシュアルハラスメント 環境型セクシュアルハラスメント
定義 職場で、労働者の意に反する性的な言動がおこなわれている状態。
拒否したことが原因で、解雇、降格、減給などの不利益を受けてしまう状況
性的な言動により職場の環境が不快なものとなってしまう状況。
その結果、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じることも含まれている
  • 事業主が性的な関係を要求したが拒否されたので解雇する
  • 人事考課などを条件に性的な関係を求める
  • 職場内での性的な発言に対し抗議した者を配置転換する
  • 学校で教師などの立場を利用し学生に性的関係を求める
  • 性的な好みで雇用上の待遇に差をつける など
  • 性的な話題をしばしば口にする
  • 恋愛経験を執拗に尋ねる
  • 宴会で男性に裸踊りを強要する
  • 特に用事もないのに執拗にメールを送る
  • 私生活に関する噂などを意図的に流すなど

セクハラはどんな場所で起こりやすい?

セクハラの多くは、診察室や病室、ナースステーションや休憩室のような、日常のどのような場面でも起こる可能性があります。たとえば、以下のような日常的によくある会話や、挨拶の際のボディタッチを「セクハラ」ととらえる場合もあります。

  • 恋人はいるの?
  • そろそろ結婚しないの?
  • 子どもはいつ生まれるの?
  • 髪を切ったね
  • かわいいね、美人だね

性的な言動は行為者と被害者の関係により、受け止め方が変化します。「このくらいでセクハラになるの?」と思われる人もいるかもしれません。しかし、受け手の気持ちを考えず「これくらいなら大丈夫だろう」という言動がNGです。

セクハラは日常的に遭遇しやすいハラスメントです。自分自身も行為者にも被害者にもなる可能性があるため注意が必要です。

看護師が遭遇するセクハラの現状

「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021」によると、職場でハラスメントをうけたことがある人は32.4%にのぼっています4)。対して、日本看護協会の調査では、一般の人の1.4倍にあたる53%の看護師が過去1年間に何らかの暴力・ハラスメントを受けた経験があると回答しています。一般的な仕事よりも、看護師はさまざまなハラスメントに遭遇しやすいのかもしれません。

看護師のセクハラ問題に関するアンケート

ナース専科で実施したセクハラに関するアンケートをもとに、現状を整理していきます。


ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:304)

アンケート結果からは「まったく被害にあわない」約43%と、「頻繁に被害にあう」「時々被害にある」「あまり被害にあわない」を合わせた約43%がほぼ同率となりました。4割の方が何かしらの被害にあっているということがわかりました。

誰からセクハラ行為があったのか

「職場でセクハラをしてくる対象者を教えてください(複数回答可)」という質問の結果は、以下の通りです。

1位/患者(60.26%)

2位/医師(19.87%)

3位/その他(7.95%)

4位/上司(4.64%)

5位/患者家族(3.97%)

ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:134)

1位は全体の60%という大差で患者さんからという結果になりました。2位の医師からのセクハラも約20%と高い割合で発生していることがわかります。

セクハラ行為の内容

次に、「どのようなセクハラをうけたか該当するものを選んでください(複数回答可)」という質問の結果は、以下の通りです。

1位/からだを触られる(43.15%)

2位/性的な言葉を言われる(28.43%)

3位/連絡先などの個人情報を聞かれる(11.68%)

4位/その他(8.63%)

5位/しつこく飲みに誘われる(5.58%)

ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:134)

具体的にされたセクハラの内容として以下のような回答がありました。

  • 患者さんに体位変換や清拭のときに不必要にからだを触られた
  • 飲み会のときに医師にからだを触られた
  • 医師にしつこく食事に誘われた
  • 住んでいる場所や連絡先をしつこく聞かれた
  • 卑猥な言葉を言われた

不必要な身体接触やしつこく個人情報を聞いてくるといったセクハラ被害が多く寄せられました。

看護師が患者さんから被害にあいやすいセクハラ

看護師が被害にあいやすいセクハラについて解説します。まずは患者対応のなかで看護師が遭遇しやすいセクハラをまとめます。

ボディタッチ
  • 移乗といった身体介助のさいに、過剰に密着する
  • 挨拶やコミュニケーションの一環で、体に触れる
  • 手を握って離さない
  • 性器や裸への過剰なケアを要求する
性的な言動
  • 「スタイルがいい」「胸が大きい」といった発言
  • 「女性看護師の制服はスカートを着るべきだ」という価値観の押し付け
  • 性的関係を迫る、性生活を尋ねる、卑猥な言動を見せるなど
性差別につながる言動
  • 「恋人はいるの?」「子どもはいないの?」「いつまで独身なの?」という質問
  • 「看護師は女の人がいい」「若い看護師に対応してほしい」といった発言
  • 「LINEや電話番号教えて」など個人情報を聞く

容姿や年齢、身体的特徴、セクシュアリティに関連する話題もセクハラです。

看護師が同僚や上司から被害にあいやすいセクハラ

セクハラは対患者とだけ起こるものではありません。同僚や上司から被害にあう可能性があるセクハラを解説します。

ボディタッチ
  • 不必要に体に触れる
  • 手をつなぐ、抱きしめるといった過剰な身体接触
性自認・性的指向に関する言動
  • セクシュアリティに関連する会話
  • 性生活に関する会話や卑猥な冗談
結婚や恋愛に関する言動
  • 恋人の有無、異性との交際状況を尋ねる
  • 交際を迫る
  • 性的関係を強要する
  • 結婚・子どもの有無のような私生活にかかわることを執拗に質問する
飲み会の席での言動
  • 飲み会で隣に座るように強要する
  • 執拗に2人きりでの食事会を迫る
  • 飲酒を強要する

セクハラを受けた際の相談先と対処方法

セクハラを受けたときに、行為者に直接注意できない、どうやって対応したらいいかわからない人もいるでしょう。セクハラは受け流したり我慢したりしているだけでは状況は改善しません。セクハラを受けたときは、自分で抱え込まずに被害を申告・相談することが大切です。ここでは、セクハラを受けた際の相談方法を解説します。

セクハラ相談の現状

「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」の結果では、ハラスメントを受けた人のうち43.2%が「誰にも相談しなかった」と回答しています。

誰にも相談しなかった理由の第1位は「相談しても無駄だと思ったから」(66.4%)でした。相談を無意味に感じ、相談以前に諦めてしまっているのも事実です。

けれども、厚生労働省のガイドラインや男女雇用機会均等法では、セクハラは被害者に非があるのではなく、加害者に非があるとしています。セクハラを我慢して、仕事のやる気がなくなったり、心身に不調をきたしてしまったりする人もいます。あなた自身が、辛い思いを抱えないように誰かに相談しましょう。

上司・同僚に相談する

セクハラを受けたときに、一番身近で相談相手になってくれるのは、上司や同僚です。上司や同僚に相談しにくい場合は、院内のハラスメント窓口に相談してみましょう。

もしかすると、自分以外の看護師も、同じ行為者からのセクハラに悩んでいるかもしれませんし、言葉には出しませんが行為を問題視している医療者もいるかもしれません。

もし、患者さんからのセクハラであれば、主治医に注意してもらう、患者の担当を外してもらうのもひとつの方法です。医療従事者からのセクハラであれば、直属の上司から注意してもらう、一緒の勤務にならないようにするといった配慮を求められる可能性があります。

外部機関に相談する

上司に伝えにくい、院内の相談窓口に相談できない場合には、外部機関を活用するのも1つの方法です。

セクハラの相談窓口として、ハラスメント悩み相談室(厚生労働省)

女性の人権ホットライン(法務省)

インタ―ネット人権相談受付窓口
があります。

相談窓口は無料で、電話・メールで気軽に相談できます。プライバシーにも十分配慮されています。困ったときにはぜひ相談してみてください。

また、厚生労働省は職場のセクハラ防止のために、さまざまな対策を行っています。具体的な事例や対策は、厚生労働省のホームページを参考にしてみてください。

セクハラは我慢せずに相談しよう

「セクハラを受けた人が悪い」「勘違いさせるような行動を取った人が悪い」という発言をする人がいますが、大きな間違いです。被害者ではなく、セクハラの行為者に責任があります。

ある人にとっては気にならない行為でも「セクハラ」だと感じる人もいます。セクハラは「罪」に問われることを忘れてはいけません。セクハラを受けたり目撃した場合は、自分で抱え込まず誰かに相談し、セクハラの被害が深刻化しないように自分の身を守りましょう。

引用・参考

1)2017 年 看護職員実態調査 日本看護協会調査研究報告<No92> 2018(日本看護協会)
https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/research/92.pdf

2)仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021(日本労働組合総連合会)
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20210625.pdf?23

3)職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/00.pdf

小田あかり
この記事を書いた人
小田あかり
大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし、医療ライター・監修者として活動中。

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