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診療看護師(NP)の役割とは?なり方・給料・今後の展望まで
公開日:2024/9/3
最終更新日:2024/9/3
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高齢化がすすむ現代社会でさらなる活躍が期待される診療看護師(NP)。この記事では、診療看護師(NP)の役割や資格取得までの流れと難易度、給料・年収事情を解説します。診療看護師(NP)の仕事内容を理解し、キャリアプランを広げましょう。
目次
診療看護師(NP)は医師の指示のもと診療行為(特定行為)を行うことができる
診療看護師(Nurse Practitioner、以下NP)とは、医師の作成した手順書にもとづき一定範囲の診療行為(特定行為)を行うことができる看護師のことです。高齢化により医療ニーズが高まりつつも医療現場の人材不足が深刻化している日本において、診療看護師(NP)は医師の役割の一部が担える看護師として期待されています。
日本看護系大学協議会や日本NP教育大学院協議会により認定される資格で、アメリカのナース・プラクティショナー制度に相当する資格として、2008年から養成教育が開始されました。
アメリカのナース・プラクティショナーは医師の指示がなくとも一定レベルの診断や治療ができる公的資格ですが、現在の日本の診療看護師(NP)は国家資格ではなく民間資格で、現行法上の看護師として医師の指示のもと一定範囲の診療行為を行っています。
2023年4月時点で、全国で759名の診療看護師(NP)が病院などで活躍しています。
診療看護師(NP)の役割
一般社団法人日本NP教育大学院協議会によると、診療看護師(NP)の役割は以下のように定義されています。
診療看護師(NP)の役割は、医師、薬剤師等の他職種と連携・協働を図り、一定レベルの診療を自律的に遂行し、患者の「症状マネジメント」を効果的、効率的、タイムリーに実施することにより患者の QOL の向上を図ることである
現在、診療看護師(NP)は国家資格ではないため、提供できる一定レベルの診療の範囲については、社会的ニーズや医療界の合意を得て整備がすすんでいる最中です。
では、現在の診療看護師(NP)が提供できる一定レベルの診療とはどのような仕事なのでしょうか?診療看護師(NP)の具体的な仕事内容を見てみましょう。
診療看護師(NP)の仕事内容
診療看護師(NP)の主な仕事内容は、以下の5つです。
問診や初期診療などの相対的医行為
医療行為のうち手術や診断、処方などは医師のみが行える行為を絶対的医行為といいます。診療看護師(NP)は絶対的医行為以外の、問診や初期診療、気管カニューレの交換やドレーン類の抜去など相対的医行為が行えるため、医師のサポート役としての働きができます。
手順書に基づいた特定行為
診療看護師(NP)は、医師によりあらかじめ作成された手順書に基づいた特定行為を行うことができます。特定行為とは、人工呼吸器の設定変更やインスリン投与量の調整など、厚生労働省が定める21区分38行為のことです。特定行為ができることで、医師からの指示を待たずにタイムリーな処置が可能となります。
クリニカルパスなど医療計画の作成
専門的な教育を修了し、疾患だけでなく健康全般にかかわるアセスメント能力や医療保健福祉制度の活用・開発能力を学んだ診療看護師(NP)は、医師を中心とした他職種と連携し、クリニカルパスやリハビリプランなどの医療計画の作成や見直しも行います。
医師と看護師の連携強化
医師や他部署と看護師の連携を強化するのも診療看護師(NP)の仕事のひとつです。医師と看護師の中間的立場の診療看護師(NP)は、医師や看護師の相談役としての役割や、他部署と看護師の橋渡し役としての役割も担っています。
看護スタッフの教育・育成
より高度な看護実践の知識がある診療看護師(NP)は、他の看護スタッフの教育・育成を行います。所属する病院によっては、他コメディカルの教育・指導や、診療看護師(NP)の育成に携わることもあるようです。
診療看護師(NP)と特定看護師の違い
特定行為ができる看護師には、所定の研修を修了した特定看護師もいます。しかし、診療看護師(NP)と特定看護師は、制度や教育に違いがあります。それぞれの違いについて、下記の表にまとめました。
診療看護師(NP) | 特定看護師 | |
---|---|---|
制度 |
|
|
主催機関 | 日本NP教育大学院協議会 日本看護系大学協議会 |
厚生労働省 |
受講資格 | 臨床経験5年以上の看護師 | 研修を実施する教育機関により異なる |
取得条件 | 大学院修士課程を修了し認定試験に合格 | 指定教育機関で所定の研修を修了 |
特徴 |
|
医師が作成した手順書に基づき研修を修了した区分の特定行為ができる |
学ぶ場所 | 大学院 | 大学院や病院など研修を実施する教育機関 |
特定看護師は、厚生労働省が認める研修修了者の名称で資格ではありません。また、研修を修了した区分の特定行為が可能となります。
一方で、診療看護師(NP)は、特定行為を含めた一定レベルの診療を自律的に行えるよう、専門の教育を受け試験に合格する必要があり、すべての特定行為が可能です。
診療看護師(NP)の活躍する職場
実際に診療看護師(NP)の活躍する職場や働き方について、日本NP教育大学院協議会の「令和4年度 診療看護師(NP)活動実態調査」をもとに分析しました。
診療看護師(NP)の職場
引用:日本NP教育大学院協議会「令和4年度 診療看護師(NP)活動実態調査報告」
上記グラフは、診療看護師(NP)が実際に勤務している職場とその所属先に関する調査結果です。
診療看護師(NP)の85%以上が病院に勤務しており、通常、病院勤務の看護師は看護部に所属する場合が多いなか、診療看護師(NP)の38.1%は診療部に所属しています。これは、診療看護師(NP)が医師と看護師の中間的存在であり、その役割が所属部署にも影響している結果と考えられるでしょう。
診療看護師(NP)の働き方
引用:日本NP教育大学院協議会「令和4年度 診療看護師(NP)活動実態調査報告」
上記グラフは、診療看護師(NP)の働き方に関する調査結果です。
ほとんどの診療看護師(NP)が常勤として雇用されています。働く立場としては、主任や師長などの管理職として勤務する診療看護師(NP)もいますが、7割以上の人が診療看護師(NP)として働いています。
夜勤については「していない」と回答した人が68.2%となっており、定期的あるいは不定期に夜勤をしている人もいるようです。日本看護協会の「2021年看護職員実態調査」によると、病院勤務の看護師の約7割が交代勤務をしている現状があるため、半数以上の人が夜勤をしていない診療看護師(NP)はやや特殊な勤務形態といえるでしょう。
診療看護師(NP)の給料・年収は?手当がつく場合も
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、看護師の平均給料は月収35.1万円で、平均年収は508万円となっています。
日本NP教育大学院協議会の「令和3年度 診療看護師(NP)活動実態調査」では、約6割の人が「看護師基本給+診療看護師(NP)としての手当がある」と回答しており、診療看護師(NP)は基本給に資格手当が上乗せされる場合が多いようです。
たとえば、国立病院機構の場合、診療看護師(NP)の手当は月額6万円となっています。ちなみに、国立病院機構では専門看護師の手当が5,000円、認定看護師の手当が3,000円で、診療看護師(NP)手当は専門看護師や認定看護師よりも手厚い手当が支給されます。
ただし、前述したように診療看護師(NP)は日勤のみの勤務形態で働いている人も多く、日勤のみの勤務では夜勤手当がつきません。また、病院により診療看護師(NP)の資格手当の金額は異なるので、勤務先に確認が必要です。
診療看護師(NP)になるには
診療看護師(NP)になるには、看護師として5年以上の実務経験を積んだのち、診療看護師(NP)教育課程がある大学院へ進学しなければなりません。専門学校を卒業し看護師免許を取得した人は、大学院進学のために出願審査が必要です。
大学院入学後は2年間で必要課程を履修し、修了試験に合格すればNP資格認定試験の受験資格が得られます。ただし、日本の保健師、助産師、看護師免許のいずれかを持っていて、海外のNP資格を取得している人は、大学院での教育は必要ありません。
NP資格認定試験に合格後、NP資格認定証が交付され診療看護師(NP)と認定されます。また、診療看護師(NP)の資格取得後は5年毎の更新が必要です。
診療看護師(NP)が目指せる大学院
2023年4月現在、日本NP教育大学院協議会の会員になっている大学は下記の15校です。
- 北海道医療大学 大学院
- 国立大学法人 秋田大学
- 東北文化学園大学 大学院
- 国立大学法人 山形大学大学院
- 東京医療保健大学 大学院看護学研究科
- 東京医療保健大学 医療保健学研究科
- 国際医療福祉大学大学院
- 佐久大学大学院
- 藤田医科大学大学院
- 愛知医科大学大学院
- 公立大学法人 島根県立大学大学院
- 公立大学法人 大分県立看護科大学大学院
- 国立大学法人 富山大学大学院
- 森ノ宮医療大学大学院
- 令和健康科学大学(令和6年度 開講予定)
NP養成コースを開設している大学は、年々増加傾向です。診療看護師(NP)養成コースは、プライマリ・ケアとクリティカルの2つの領域があり、大学により学べる領域は異なります。募集要項や定員数も大学により異なるため、詳細は各学校に問い合わせてください。
大学院の学費は、2年間で150〜300万円程度かかる場合が多いようです。費用負担を軽くするために、厚生労働省の専門実践教育訓練給付金や日本学生支援機構の奨学金、自治体の支援制度が活用できる場合があります。
診療看護師(NP)試験の内容
診療看護師(NP)試験は、大学院修士課程で専攻した領域別に3つの領域にわかれています。筆記試験のみで、出題科目と割合は以下のとおりです。午前に①〜④の共通科目、午後に⑤〜⑧の領域別科目の試験が実施されます。
受験料は30,000円で、合格した場合、認定料10,000円が別途必要です。
【受験領域】
- プライマリ・ケア(成人・老年)
- プライマリ・ケア(小児)
- クリティカル
共通科目 | 出題割合 | 領域別科目 | 出題割合 |
---|---|---|---|
① NP(診療看護師(NP))論 | 5% | ⑤ 病態機能学 | 15% |
② 疾患予防・健康増進 | 2% | ⑥ 臨床薬理学 | 10% |
③ 医療論理 | 3% | ⑦ クリニカルアセスメント | 30% |
④ 医療安全・関係法規 | 5% | ⑧ クリニカルマネジメント | 30% |
引用:日本NP教育大学院協議会「令和4年度 第13回NP資格認定試験 試験要項」
診療看護師(NP)試験の難易度は?
診療看護師(NP)試験の合格基準や合格率は、公表されていません。合格者は、年度ごとに評価委員会の審議により決定されます。不合格の場合、翌年度以降に再受験することができます。
看護師として働きながら診療看護師(NP)になることはできる?
進学する大学院により、看護師として働きながら診療看護師(NP)をめざすこともできます。
NP養成コースを設置している大学院のなかには、働きながら学ぶ人のために夜間や土日にも授業が受けられる「昼夜開講制」や2年以上の時間をかけて学べる「長期履修学生制度」を取り入れているところもあります。
一方で、日中の実習が必要な大学院や全日制の大学院もあるため、進学する学校によっては仕事を休職または退職しなければいけないかもしれません。
今後の活躍が期待される診療看護師(NP)
現在の日本では、診療看護師(NP)は国家資格ではなく現行法上の看護師です。医師の指示がなくとも診断・投薬など一定レベルの診療が行える、アメリカのNP(ナースプラクティショナー)と違い、日本の診療看護師(NP)は、医師の指示がないと一定範囲の診療行為はできません。
しかし、医療ニーズがピークとなる2040年には少子化による労働人口の減少や、医師不足から、日本看護協会などは、医療を支える立場として診療看護師(NP)の裁量の拡大が必要だと述べています。2020年9月には、アメリカと同等のナース・プラクティショナー(仮称)制度創設に向けて、日本看護系大学協議会と日本NP教育大学院協議会、日本看護協会の三団体連名で制度創設に関する要望書も提出されました。
今後、制度の整備が進めば、医師の一部を担う存在として病院や在宅医療・介護の現場での診療看護師(NP)の需要はさらに高まるかもしれません。
診療看護師(NP)の役割を理解しキャリアの選択肢に
医師のかわりに一定レベルの診療ができる診療看護師(NP)は、さらなる高齢化と労働人口の減少による医療ニーズの拡大に貢献できる人材として、今後の活躍が期待されています。高い看護スキルを活かし、医療チームの中心的存在として患者さんを支えられる診療看護師の仕事は、やりがいもあります。
しかし、診療看護師(NP)になるためには、臨床経験や所定の教育課程の履修、試験の合格が必要です。資格取得後も更新が必要で、難易度が低い資格とはいえません。資格取得の難易度ややりがいを理解して、キャリアの選択肢にしてみてください。
参考
-
この記事を書いた人柴田実岐子
- 福岡県生まれ。大学卒業後、一般企業に勤務し、社会人から看護師免許を取得。急性期外科などで経験を積んだのち、夜勤専従・派遣・応援ナースなど、さまざまな働き方を経験。離島移住をきっかけに、へき地医療に従事しながらライターとしても活動中。