看護師の輸血、輸液ラインの中の気泡、空気が混入するのはどんな場合?気泡の許容範囲は?

輸液ライン中の気泡

今回執筆を頂いた先生:井上 善文先生
医療法人川崎病院 外科 統括部長

4月になり、桜の花も散り…と思っていたら、あっという間に初夏になっております。
病棟には新人ナースが配属され、なんとなく若返っている?そんな雰囲気になっております。
そう、『若返っている』なんていう表現をすると、先輩ナース達に叱られそうです…ごめんなさい。

さて、今回の話題は、輸液ラインの中の気泡です。
新人ナースが病棟で仕事を始める時、きっと気になる内容だと思いますので、具体的に説明させていただきます。
輸液ライン内に空気が入っているのは、病棟ではごく当たり前のように経験することです。

その空気が体の中に入ると、生命に関わる大問題が起こる、と思っておられる方が多いのではないでしょうか。
もちろん、患者さん達、家族の方々は輸液ラインの中に空気が入っているのを見つけると、大変なことが起こっている、と思うはずです。
そして、『管理が悪い』『ちゃんと見てくれていない』と思うはずです。
さらに、『早く空気を取り除かなければ!大変だ!早く、早く!』とあわてるのではないでしょうか。

そこで、プロのナースとしては、あわてる必要はないのだ、ということを患者さんや家族の方々に説明しなければなりません。
先輩ナースとしては新人ナースに説明しなければなりません。
もちろん、理論的に、です。

このくらいの空気は大丈夫です、といった曖昧な説明では物足りないと思います。
まずは、血管の中に空気が入るとどうなるのか?という問題です。
静脈内に入った少しの『空気』は、小さな泡に分かれながら心臓に戻り、右心房→右心室→肺動脈と流れます。
最終的には肺毛細血管にたどり着いて肺で吸収されて人体には大きな影響は与えません。

処理できないくらいの『空気』が入ると、空気塞栓という状態になります。空気が心臓の右心系に入り、肺動脈へと流れますが、肺動脈で空気塞栓の状態となり、肺胞毛細血管まで血液が行かなくなります。
その結果、肺胞でのガス交換ができなくなり、最悪の場合は急性循環障害で死亡することもあります。
また、心臓にシャント(右心房と左心房の交通)があれば、脳の血管に空気がひっかかり、脳の空気塞栓、脳梗塞の原因にもなります。
実際に大量の空気が血管内に入れば、生命の危険を伴う重大な問題が生じることは間違いありません。

輸液ライン中の気泡の量

それでは、血管内に空気がどれくらい入ると、生命にかかわる問題が発生するのか、この点に関する知識が必要です。
実は、明確なデータは存在しません。
何mLの空気が体の中(血管内)に入れば大変なことになるのか?
こんな検討は人体実験になりますので、実際に研究することができないからです。

しかし、表に示すような報告はあります。

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血管内に注入した空気などの影響に関する報告

(1)チアノーゼの治療として酸素を直接静脈に注入した。
10mL/minは治療量で、20mL/minは致死量であった。

(2)重症症例においては、10mL以下でも空気が入ると、時として致命的である

(3)ウサギでは5.5~7.5ml/kgの空気が静脈内に入ると死亡する

(4)ヒトでは総量40mLの空気が入ると危険である

(5)100mLの空気を急速に投与すると死亡した

(6)200mLの空気を急速に投与すると死亡した

出典元はコチラから

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非常に古い報告ですが、これらを総合して考えると、10mLくらいが安全限界と考えていいのではないでしょうか。
それでは、輸液ラインの中の空気ですが、量としては何mLになるのでしょうか?
多分、計算したことがある方は少ないと思います。
何cmの長さの空気が入っていると、『大変だ!』と感じるのでしょうか?
私の印象としては、2〜3cmくらいでしょうか。

もし、輸液ラインの途中に、例えば、5cmの長さで空気が入っていたら、ものすごい量だ、生命にかかわる問題が発生する!大変だ!と思う方が多いと思います。
理論的に理解している私でも、5cmの長さに空気が入っていたら、取り除いた方がいいな、と感じます。
印象としての話でもあるのですが。

そこで、ここで、輸液ラインの中に入っている5cmの長さの空気は何mLになるのか、実際に計算してみましょう。
通常用いられている輸液ラインの内径は2.28mmです。
空気が1cmの長さにわたって入っていると、いったい何mlの空気が入っていることになるのでしょうか?
内径2.28mmのチューブの断面積は、半径×半径×円周率と計算すると、0.114cm×0.114cm×3.14となりまして、0.041㎠となります。

ということは、1cmの長さの空気がチューブ内に入っている場合には、0.041㎠×1cm=0.041㎤=0.041mLということになります。
ということは、5cmなら0.041mL×5cmで0.205mLになります。
10cmでも0.41mLにすぎません。ええ!こんなに少ないの?と感じた方が多いのではないでしょうか?

生命に危険を及ぼす輸液ライン中の気泡の量は?

それでは、輸液ラインのどれだけの長さに空気が入っていると、生命の危険があるかもしれないという量である、10mLになるのでしょうか?

(10mL÷0.041mL/cm)として計算すると、243.9cmということになります。

現在使用されている輸液ラインの中で最も長いものがこのくらいの長さです。
通常、末梢点滴として使用されている輸液ラインの長さは、この半分の120cmくらいですので、輸液ラインの全長に空気が入っていて、これが全部体内に入っても安全限界を超えることはない、ということになります。

もちろん、輸液速度も関係します。
通常の輸液速度、100mL/時程度の場合は、10mLの空気が体内に入るには6分かかります。
このくらいゆっくりと空気が体内に入るのであれば、血液中に溶解できるはずですので、計算上、問題は起こらないということになります。
だから、そう心配する必要はないし、慌てる必要もない、ということになります。

しかし、輸液ラインの中に空気は入れないようにするほうがいいに決まっています。

輸血ライン内に空気が混入するのはどんな場合?

さて、輸液ライン内に空気が混入するのは、どんな場合でしょうか?
輸液バッグを交換する時、クランプしない状態でバッグ交換に手間取ると、ドリップ内の輸液が落ちてしまって空気が輸液ライン内に入ってしまうことがあります。めったにないことですが。

また、ドリップチャンバーに勢いよく輸液を満たすと、この中で空気と輸液が急に混ざって輸液ライン内に空気が入ってしまうことがありますが、これは微々たる量です。
また、冷たい輸液が室温に戻る時、溶けていた空気が輸液ライン内に気泡となって出てくることがあります。
通常は、輸液の温度が変わって自然に輸液ラインの中に出てくる場合が多いとされています。

無菌調剤で輸液を作って冷蔵庫に保存しておいてから使用する場合などに特に注意が必要です。
冷蔵していた輸液は室温に戻してから投与しなさいという、基本的な注意点は、気泡が発生するという問題を考慮してのことです。
これも空気の量としては微々たるものです。
特殊な状況として輸液ラインが輸液バッグから抜けた場合は?ということも考えられますが、この場合は、通常は血液がカテーテルから輸液ライン内へと逆流するので、空気が入ることはないはずです。

輸液ライン内に空気が入らないようにするためには?

とにかく、最初に計算したように、輸液ライン内に入っている程度の空気は、生命に関わるような大きな問題にはならない、と考えていいのです。
もちろん、シャントを有する心疾患がない場合に限りますが。
さらに、輸液ラインにフィルターが組み込まれていれば、もっと安全です。フィルタ―には空気を抜く『エアベント』という機構が備わっているからです。
疎水性フィルター部分から空気が抜けていくため、フィルターより患者側に空気は入らないようになっています。

輸液ポンプを用いている場合はもっと安全です。
気泡検出装置がついていますから。
しかし、気泡検出装置のアラームが鳴ることの方が、管理上は問題になっているのかもしれません。

輸液ラインまとめ

これだけの内容を読んで、なんだ、輸液ライン内に空気が入っていても問題はないのか、と思ってしまうのはよくないと思います。
体内に入る空気の安全限界は10mLだと述べましたが、あくまでも古いデータに基づいたものであり、本当に信頼できるのかというと、私自身の経験でも、実験データでもありませんので、自信はありません。
輸液ライン内に空気が入っていることに対して、ビクビクしたり、大慌てをしたりする必要はありませんが、やはり、空気が入っているのに気付いたら、空気を除くよう心がけることは重要だと思います。
輸血に際し、ポンプを用いて急速投与をしている場合に空気が大量に体内に入って空気塞栓が起こったという医療事故が発生して問題になっています。

患者さん達も輸液ラインの中に空気が入っているのを見つけると心配するはずです。
よく気付くのは、実は、家族の方なんですが。

もし、これに対して適切に対処しないと、患者さんとの信頼関係も失うことになります。
病床を訪れるたびに輸液ラインを注意深くチェックし、空気が入っていたら除去するべきだと思います。
一旦輸液ラインをクランプしてチューブを叩いて空気をドリップチャンバーに戻したり、患者側に注射器をつけて空気を吸引して除いたり、いろいろ方法はあります。
その方法をマスターしておくことも重要です。

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【参照元】 ナース専科コミュニティ

【監修者名】
日本コヴィディエン株式会社
【事業概要】
シングルユース医療機器の製造及び販売、並びにこれらに関連する一切の事業

【主な製品・サービス】
閉鎖式輸液システム「セイフアクセスシステム」をご紹介しております。
ノーデッドスペースにより液だまりを防ぐ三方活栓「セイフTポート」、
ルートの閉鎖化を実現する「セイフAプラグ」、
はずれ防止機能付きプラスチックカニューラ「セイフCカニューラ」、
針刺し事故防止機能付きワンショット用カニューラ「セイフバイアクセス」
のパーツを活用し、ご施設にあわせた輸液ラインをトータルでご提案致します。

CV挿入中の管理方法及び輸液ラインの事故防止対策について、
弊社専任アドバイザーによる院内勉強会も施行しております。
詳しくは弊社ホームページの「製品・サービス」をご覧ください。

【URL】
http://www.covidien.co.jp

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